ロンドンで「ミクソロジスト」という呼称が広まったのは、1990年代の半ばだったろうか。リキュールに頼らず、果物やハーブなどをそのまま使うカクテルを得意とするバーテンダー達のことだ。
折からの健康ブームもあって、ミクソロジストはまたたく間に世界中に広がった。

日本では、銀座のバーRAGEが有名だ。以前ご紹介したORCHARDでも、フルーツのカクテルを得意としている。
バーRAGEも決して悪くはないが、いかにも最先端のBARといった雰囲気が、自分にはちょっと落ち着かなく感じてしまう。友人を連れて行くとすれば、居心地やヘルシーさを考え、「BAR yu-nagi(バー・夕凪)」の方を選ぶだろう。
銀座・夕凪_外観場所は、銀座中央通りから有楽町側へ1本入ったすずらん通り沿いで、交詢ビル(バーニーズ・ニューヨーク)の右隣のビルの地下。目印は、2階のダイニングバーに窓から入ろうとしている大きなゴリラ像だ。

階段を降りて店に入ると、右手に7席ほどの真っすぐなカウンターがあり、左手にはボックス席が2つ。

バーテンダーの神木俊行さんは、埼玉県の農家に生まれ、都内の大学を卒業後、地元のJAに就職。在職中に、丹精込めて最高品質の青果を作っている無名の生産者が、全国にいることを知った。銀座の一流店でも通用する味だと確信を抱き、何の経験もないままバーテンダーになることを決意。24歳にして銀座でバーテンダー修業を始め、2007年4月に「BAR yu-nagi」を開店した。

カクテルに使用する果物や野菜は、農水省認定の有機JAS規格以上のレベルのみに限定。旬であることはもちろん、最も状態の良いものだけを使用している。
品質にこだわっているのは、野菜や果物だけではない。たとえばミネラルウォーターは、体に優しい天然ミネラル成分バナジウムを豊富に含む、富士山の極上天然水SUICYを使っている。

神木さんは、野菜やフルーツをどう活かせば美味しいカクテルになるか、常に研究を重ねている。通常はカクテルの材料にならないような、意外な野菜が使われることも珍しくない。
彼のカクテルは、ともかく新鮮な美味しさが凝縮されている。初めて飲んだ人は、「野菜って、こんなに美味しいんだ!」と驚くことだろう。同時に、「昔の野菜や果物って、きっとこんな味をしてたんだろうな…」と、懐かしい気分にもさせてくれる。

カクテル以外では、60年代~80年代のブレンデッドウィスキーが豊富だ。通好みのモルトではなく、あえてブレンデッドというところに、穏やかな調和を大事する神木さんの思いが表れている。つまみは枝付レーズンやチョコレートなどの軽いものばかりだが、炭火焙煎珈琲やシガーも楽しめるところは魅力だ。

銀座・夕凪_店内店名の「夕凪」には、夕暮れ時の穏やかな時間を、素敵なお酒と一緒に過ごして欲しいという思いを込めたそうだ。そのため、店内も穏やかな海に浮かぶ船の一室をイメージしたのだという。
シンプルだがスタイリッシュな内装で、背もたれの高い肘掛椅子も落ち着ける。カウンターの背後に、漁火のように並んでいる小さな灯りが美しい。

多くの名バーテンダーがしのぎを削る銀座にあって、こういうホッとできる店というのはいいものだ
ビジネスの荒波から逃れて帆を休めるのに、もってこいのバーだろう。

→BAR yu-nagi