くら川_外観料理とお酒の相性は大切だが、ワインではなく日本酒でそこまで気を遣ってくれる店は、まだまだ少ない。美味しい料理を食べながら、それに合った日本酒が飲め、しかも気負わずに訪れることができそうなタイプの店となると、かなり数は絞られるだろう。
浦和駅近くの路地裏にひっそりと構える「食と燗 くら川」は、そんな希望に応えてくれる嬉しい店だ。
場所は、浦和駅西口の駅前ロータリーの左手に見える千ベロ居酒屋「豊丸」の左側の路地を入って、約30m右側。
外観は、「くら川」という表札と引戸、軒から吊るされた酒林だけという、少々気後れしそうなたたずまいだ。通りがかりにこの戸を開けるのは、ちょっと勇気がいるだろう。

千本格子の引戸を開けて中に入ると、一瞬、昔なつかしい土間の台所の光景がオーバーラップする。店内は、田舎の夕暮れを思わせるような暗さで、BGMもない。
右側のカウンターの中には、頭をきっちり剃り上げた若い店主と、小柄な女性が控えている。
幅の広い一枚板のカウンターには7人分の木箸が並べられており、その奥の半個室には6人用のテーブルが1卓のみ。半個室とカウンターの間の壁に小窓が設けてあるのは、店とのコミュニケーションが取りやすくて気が利いている
荷物はカウンターの背後のベンチに置き、上着は壁のハンガーに掛けられる。

開店は2011年11月30日。大将の蔵川雄貴さんは、埼玉を代表する銘酒居酒屋「和浦酒場」で10年間板長を務め、34歳でこの店を開いた。店の内外装や食器、酒、料理、調理道具にまで蔵川さんのこだわりが込められており、その名の通り、蔵川さん自身のセンスと価値観を体現した店になっている。

くら川_店内できるだけ日本酒はお燗で飲んでほしいというのも、その1つ。
お燗番の女性は、「和浦酒場」で腕を磨いた「すぅさん」こと鈴木さん。それぞれの銘柄の味わいを引き出すだけでなく、料理との相性、客の呑むペースや酔い具合、好みや体調まで考慮して、絶妙に温度を調節する。燗付器は、なんと炭火で温める方式のアンティーク物だ。

伝説的な酒造指導者だった故・上原浩氏の「酒は純米、燗ならなお良し」という名言が書かれた盃と、白磁の徳利とでお燗は提供される。
銘柄は日によって変わるが、秋鹿、東洋美人、奥播磨、いづみ橋、天遊琳、神亀、睡龍、独楽蔵、鯉川、るみ子の酒、庭のうぐいす…といった、燗に合う純米酒や純米吟醸酒が選ばれている。

価格は冷酒(約半合)で1杯880円~、1合なら千円台半ばくらいが中心。訪れた日には、秋鹿の純米大吟醸雫酒 「嘉村壱号田」といった逸品もあったが、「コレは高いよ」と言われて(2,800円)断念した…
焼酎は、「松露」などの芋焼酎と、「情け嶋」などの麦焼酎がそれぞれ3種類ずつあり、梅酒やビール(モルツ)、バーボン(ジョニー・ドラム)も一応置いてある。

料理はすべて日替わりで、単品での注文もできるが、メインはコース。5千円から千円刻みで用意してもらえる。
5千円のコースをお願いしたところ、クワイの網焼き、金目鯛・蛸・かんぬき(大きめのサヨリ)・焼〆鯖のお造り、白子ポン酢、れんこん饅頭のあんかけ、柿の山葵醤油和え、クリームチーズの粕漬け、牛すじ蕎麦…といった内容だった。特に美味だったのは、焼〆鯖、れんこん饅頭のあんかけ、クリームチーズの粕漬け。
クリームチーズの粕漬けと「生もとのどぶ」が絶妙のマリアージュを見せてくれ、普段は滅多に飲まない濁りの燗酒が、進む、進む…!

単品料理は700円くらいからあるが、刺身類や手の込んだ煮物などは1,200円~1,600円ほどになる。
冬はフグやスッポンもメニューに並ぶが、それぞれコースでいただきたい場合は事前の予約が必要だ(原則2人前~)。

量より質を求める大人には、こういう店が魅力的に映るもの。リピートしたいと思う、数少ない店の1つだ。

●食と燗 くら川
さいたま市浦和区高砂1-7-4
TEL.048-627-7186
営業時間/17時~24時(休日未定)