兄弟で芸術家というのはよく聞く話だが、文学・音楽・美術など、異なるフィールドでそれぞれ名を馳せている兄弟がいるのには感心する。
芸術には、ジャンルを超えた一流のセンスといったものがあるのかもしれない。
千住3兄弟(※1)や、つのだ3兄弟(※2)あたりが有名だが、菊地兄弟もそんな好例と言えそうだ。
兄は伝奇小説作家にして漫画の原作もこなす菊地秀行、弟は音楽家で文筆家でもある菊地成孔(きくちなるよし)だ。

菊地成孔の本業は、とりあえずJAZZサックス奏者だろう。文筆家や音楽講師としても活躍しているようだが、そちらにはあまり興味がない。
サックス奏者としての活躍もかなり幅広く、懐かしいビッグバンド風の曲から前衛的な曲、クラブ・ミュージックのようなタッチまで手掛ける。映画好きでも知られていて、05年には『大停電の夜に』の音楽を担当した。

彼のサックスの魅力は、妖艶なところにある。曲によってスタイルは様々なのだが、妖艶さは共通。従って、お酒のBGMに良くハマる。

デビュー・アルバムが、04年の「Degustation à Jazz」。「Degustation」というのは「試食」のことで、その名の通り極端に短い楽曲が30曲、料理のようなタイトルで並んでいる。
短いもので1分未満、平均しても1曲あたり1分40秒ほどしかない。

このアルバムは、現在世界一人気があるレストランと言われている、スペインの「エル・ブリ」から発想を得たそうだ。「エル・ブリ」のコース料理は、ほんの数口程度の小皿が20皿以上出てくる。どれもが「料理」の常識を覆すような驚愕のメニューで、料理界に大きな衝撃を与えた。シェフのフェラン・アドリアは「料理界のピカソ」と評されているそうだ。
その料理にヒントを得て、それをJAZZに「料理」してしまうというのも、これまた斬新な発想だ。
彼もまた、飲むこと・食べることがかなり好きなタイプと見た。

05年の「南米のエリザベス・テイラー」も、面白いアルバムだ。南米で作っただけあって、タンゴのリズムを取り入れているが、ちゃんと彼らしい曲にに仕上げている。「京マチ子の夜」といった冗談みたいなタイトルの曲も、しっかり妖しく魅力的だ。

彼の曲には、たまに彼自身が歌を付けているものもあるが、カヒミ・カリィがよくボーカルを担当している。
彼女のかすれたフランス語のボーカルがこれまた最高で、酒が進むことこの上ない。

ちなみに、菊地成孔の仕事場は、新宿・歌舞伎町のマンション最上階にある。

●DEGUSTATION A JAZZ authentiquebleue
 B0002MLX84
●南米のエリザベス・テイラー
 B000994SWI

※1 千住3兄弟/博が日本画家、明が作曲家、真理子がバイオリニスト
※2 つのだ3兄弟/じろうが漫画家、たかしがリュート奏者、☆ひろがドラマー