日本に美酒は数あれど、美味しければ美味しいほど値段も高いのが普通だ。
しかし、探せば安くて旨い酒が無いわけではない。例えば「風の森」のコストパフォーマンスの高さは、かなりのものだ。

造っているのは、奈良の油長酒造(株)。
全国でも有数の、こだわりを持って酒造りをしている蔵のひとつだ。

創業は享保4年(1719年)。290年近くにわたって、地下百メートルの深井戸から汲み上げた湧水を仕込み水として使い続けている。
2001年以降は純米酒だけしか造らず、それも吟醸と大吟醸が中心。酵母は7号酵母しか使わない。

酒米は、最高の酒米として知られる山田錦や雄町を使ったものもあるが、奈良県産の食用米であるアキツホやキヌヒカリを主力としている。お酒を醸すのに適した米と、食用に適したお米とはタイプが違うため、食用米で美味しいお酒を醸すのは難しいのだが、この蔵ではあくまで地元の米と水で造ることにこだわっているのだ。

更に凄いのが、全て無濾過生原酒で出荷されていること。こんな蔵はほかに聞いたことがない。
日本酒は、濁りなく仕上げるために濾過するのが普通だが、その際にお酒が本来持っている旨味も多少失ってしまう。
また、なるべく長期間品質を保持するため、一般的な日本酒は加熱殺菌してから出荷される。加熱していない「生酒」だと、300mlの瓶を良く見ると思うが、この小ささは開栓したら残さず全部飲み切ってもらいたいからだ。

味を第一に考えるなら、「無濾過生原酒」は理想だが、実際に製品化するのはなかなか難しい。保存のきく冬に限定して出荷することはあるが、この蔵は通年なのだ。
これを実現するために、ここでは麹造りから搾り方、保存の仕方にいたるまで、様々な工夫をしているという。
その甲斐あって、「風の森」は生酒でありながら、常温で保存しておいても劣化するどころか、逆に旨さを増すことすらある。

「風の森」のラインナップは、3種類の搾り方と4種類の酒米によって分かれているが、最も安い「純米しぼり華(アキツホ)」は1,995円。純米大吟醸でも、なんと2,730円からある。最高クラスの「純米大吟醸斗瓶とり」ですら、3,150円~。
言っておくが、これはすべて1升の税込み価格だ。(約半額で4合瓶もある。)この価格でこの美味しさを実現した努力には、惜しみない拍手を送りたい。

生酒は通常、冷やしてフレッシュな味わいを楽しむものだが、「風の森」は温めるとひときわ旨さが増す。いわゆる燗上がりする酒だ。できれば、ぬる燗(40度前後)でぜひ試してみて欲しい。

これまでに自分が「風の森」を見かけた店は、新橋「晒柿」(07年11月26日紹介)、池袋「半蔵」(次回紹介予定)、浦和「月の岩」(未紹介)…などだ。
ただし、この先も常備されているとは限らないので、その点は注意してほしい。

なお、油長酒造では「火の鳥」という米焼酎も醸している。

油長酒造株式会社(情報は今ひとつ古い…)