※2008年8月、「黒い月」は青山に移転した。場所は、青山通りから骨董通に折れ、一つ目の角を左折した右側、地下2階。

常に新しい店探しに余念のない自分だが、ここは通いたい!と心底思う店が、たま~にある。
生まれて初めてそう思い、事実しばらく通っていたのが、渋谷のBAR「黒い月」だ。
最初に訪れてから、たぶん20年くらい経つだろうか。

「黒い月」は、東急本店の向かいに建つ雑居ビルの3階にある。ビルの表にも中にも一切看板が無く、住所・電話番号も非公開。いわゆる隠れ家BARの走りだった。
かつては1階の郵便ポストですら、真っ黒に塗られているだけだった(「黒い月」が描かれていたのかもしれない。)のだが、最近は小さく店名が添えられているので、昔に比べれば見つけやすくなった。

3階に上がると、ブロンズ色の大きなドアだけがある。ここにも店名表示がない(実は、目に付かないが壁に店名表示がある)ので、入るには少々勇気が要るかもしれない。だが、いったんドアを開けると、実に和める不思議な空間が出迎えてくれるのだ。

店は小さく、カウンターに2人用のベンチが4脚、テーブルが2卓。
照明は暗くてカウンター各席の前にスポットが当たるようになっている。壁はコンクリート打ちっぱなし。ドアと同様、店内のカウンターや棚も、金属で統一されている。

カウンターの中は、左半分がボトル棚になっているが、右半分は一面ブロンズ。実は、こちらにバックスペースへのドアがあり、裏にも数々のお酒がストックされているのだ。
店の右奥のスペースには、床にオーディオとCDが置かれている。かつてはモニターも置かれていて、古いモノクロ映画が流れていたりしたのが、今は女性だけになったためか、それはなくなっている。

店は正統派のバーだが、置いてあるお酒は非常に個性的。昔から、「知っている酒が1本もない!」と言われるほど、マニアックな酒ばかり揃えられていた。この店で、どれだけ美味しい酒を教えてもらったか数知れない。

自分が良く通っていた当時は、まだ「Milk Hall」から「黒い月」に替わって間もない頃で、オーナーの星さん、バーテンダーの相沢さんがバリバリだった。だが、お二人とも相次いで店を離れ、その頃アルバイトだった女の子が、今では立派な店長
それが、ソムリエールの新田さん。当時からお酒には詳しかったが、かなり前にソムリエ資格も取り、1人で店を守っている。昔の自分には少々とっつきにくい印象もあったのだが、今はすっかり柔らかくなって感じがいい。(おまけに…思わず「化け物か!?」と口走ってしまったほど、容姿が昔と変わってない…!)

この店にメニューはない。オーダーは、彼女と相談しながら決める。お酒は、ウィスキーで1,000円くらいから、カクテルは1,500円くらいから。チャージは1,000円。ただし、秘蔵のお酒も多いので、懐が不安な時は値段を確認してからオーダーした方がいい。
自分は昔、この店で思い切り飲みたいがために、某クレジット・カードを取得したという過去がある。現在は、VISAカードが使える。

つまみは乾き物やチーズが少しある程度で、料理はない。
昔と変わったのは、ワインの種類が増えたことだ。月2回、ワインの試飲会も開いているらしい。
あとは、新田さんの愛犬、ミニチュアダックスフンドの「古酒」が、お客さんの間を飛び回っていること。
とても良く躾けられていて、決して悪さはせず、お客さんに愛想を振りまく様子には、撫でずにいられない。

この店にいると、場所も時間も忘れてしまう。自分が信頼できる友人しか連れて来ない、真にお気に入りの店