昔は淡麗な日本酒が好きだったが、最近はそれなりに飲み応えのある、しっかりしたタイプが好きになってきた。
淡麗なお酒は呑みやすい一方、どれも似たような味わいになりやすく、呑み慣れてくると少々物足りなさも感じてくる。もちろん、それはそれで美味しいのだが(特に夏などは)、蔵の個性や米の個性が感じられるお酒には日本酒の面白さがあるような気がして来たのだ。

料理との相性もある。
吟醸酒のように、スッキリしていて薫り高いお酒は、それだけで充分おいしい。だが、京料理などと合わせると、その味わいや風味を邪魔してしまうことも少なくないのだ。

吟醸酒として素晴らしい味わいを持ちながら、料理と合わせてもなお美味しいというお酒が、ないわけではない。例えば「鶴齢」はそんな貴重なお酒のひとつだ。

「鶴齢」は、米どころ新潟県の南魚沼市にある、青木酒造の代表銘柄だ。1717年創業というから、既に291年を経た由緒ある蔵になる。
越後杜氏による冬だけの手造りという、伝統的な製法を守り続ける一方、品質向上のために変えるべき部分は大胆に変えるという革新性も持ち合わせている。(全国に数台しか導入されていない最新製麹機をいち早く導入したりしている。)

代表銘柄である「鶴齢」は、鈴木牧之の命名だという。
鈴木牧之は江戸時代の越後を代表する文化人で、魚沼の生活や文化を克明に紹介した『北越雪譜』という著作が、当時の江戸でベストセラーになっている。
青木酒造は、その子孫によって経営されているのだ。

魚沼の料理は、伝統的に冬の間保存が効く甘醤油で味付けされたものが多い。また、雪国での労働は意外と汗をかくことから、そんな地元の食生活に合った米本来の旨味を引き出す味を「鶴齢」は目指して造られている。
そのため、淡麗辛口イメージが強い新潟の地酒にも関わらず、米の美味しさをしっかりと感じさせる旨口の酒に仕上がっているのだ。

その純米大吟醸(1升・6,116円)は、最高級の酒米である山田錦の中でも、更に最高品質を誇る兵庫県東条町特A地区産のものを使用し、それを40%まで磨いている
ほのかにフルーツを思わせるような吟醸香はするものの、決して強すぎず、口に含むとしっかりとした米の旨味が広がってくる。
普通の純米大吟醸酒とは一味違う、越後の骨太さを感じさせてくれるような魅力的な酒だ。

現在、鶴齢の酒は地元で約75%が消費されているそうだが、都内で仕入れている店も徐々に増えてきている。単に「人気のある酒」ではなく、本当に美味しい酒を選んでいる店なら、置いてあっても不思議ではない。
逆に鶴齢がラインナップされている店だったら、他の銘柄もまず間違いのないものが揃えられていると見ていいだろう。
池袋の「坐唯杏」、新板橋の「ST」、築地の「ねこ屋」、新橋の「うさぎ」、大宮の「仁左衛門」あたりで見た記憶があるが(5店とも紹介済み)、さすがに常時飲める店はなかなかない。

鶴齢は純米大吟醸酒に限り、黒っぽいすりガラス瓶が使われている(普通は緑や茶色の瓶)ので、これが純米大吟醸の目印になる。
更に上位酒として、純米大吟醸生原酒・斗瓶取り(1升8,400円)や、290周年記念純米大吟醸酒(4合18,900円)といった超レア物もあるが、これこそ見かけることのほとんどない、幻の酒だ。

→青木酒造
http://www.kakurei.co.jp/index.shtml