あまりにも有名な居酒屋シリーズ・その2。 前回ちらっと書いた、月島「岸田屋」を紹介する。
日本酒の日(10月1日)にご紹介するのにふさわしい店かもしれない。

今更紹介するのもアホらしいほど、半ば伝説化しつつある名店である。『美味しんぼ』第1巻では、フランス人の有名シェフをうならせる肉料理として、この店の煮込みが登場した。
大衆居酒屋界のカリスマ・太田和彦さんは、この店を「東京3大もつ煮」の1店に挙げ、更に「日本3大居酒屋」にもランクインさせている。

ちなみに、「東京3大もつ煮」の残り2店は、北千住の「大はし」と、前回紹介した森下の「山利喜」。これに、立石の「宇ち多゛」と門前仲町の「大坂屋」を加えて「5大煮込み」と言われることもある。
また、「日本3大居酒屋」の残り2店には、大阪・阿倍野の「明治屋」と、和歌山・南紀白浜の「長久酒場」を挙げている。
彼の好む居酒屋というのは、古い・安い・渋いといった癖がけっこう強いので、万人向きでないことは付け加えておく。

店は、もんじゃ屋が立ち並ぶ西仲通商店街の外れ近くにある。
大江戸線・月島駅の10番出口を出て、清澄通りを勝どき方面に100mほど進み、信号を右折。二つ目の角がアーケードのある西仲通り商店街なので、そこを左折して4番街に入ると、少し先に「酒」と大書きされた暖簾が左手にある。おそらく、店の前の行列で分かると思うが…。
距離的には、隣の勝どき駅からの方が近いかもしれない。

戦時中に立飲みの国民酒場として賑わい、今の建物になったのが1957年だそうだから、それからだけでも優に半世紀を越えている。
さすがに、この大暖簾は風格がある。今時こんな暖簾はまず見ないだろう。
開店前から店の前には行列ができ、5時と同時に満席となるのが普通。9時近くにならないと、並ばずに入れることは少ない。(ラスト・オーダーは9時半)

格子戸を開けて中に入ると、外観を裏切らない古くて渋い店内。奥の厨房との境には、店名が書かれた年代物の看板が掲げてある。壁には、大相撲の番付表や、レトロなポスター。入口の上端には、テレビ
コの字をした檜のカウンタ-の周りに10席、右側の壁に沿ったカウンターに5席が定員だが、ちょっとオーバー気味のグループ客や、1人客の場合は、壁カウンターの両端に椅子を置いて、詰め込んでもらえることもある。

噂の牛煮込み(450円)は、ほぼモツのみ。「ネギは入れますか?」と聞かれるので、頼めばたっぷりネギを添えてくれるが、敢えて入れないのがここでは主流らしい。味はもちろん美味しいが、東京で3本の指に入るかどうかは、モツに疎い自分には判断できない。ただ、ここのモツ煮に「感動した」という客が多いことは事実だ。

むしろ、肉とうふ(600円)の方が旨い、という客もいる。あなごの煮付け(500円)も人気だ。ほかにも、シラス(250円)、ぬた(400円)、うるめ丸干し(400円)、エイの軟骨(400円)、くさや(500円)、干鱈(500円)…といった、渋い肴が目白押し

お酒は、菊正宗(360円)、百万両・冷用生酒(300ml・620円)、菊正宗・冷用生酒(300ml・850円)、吉野杉・樽酒(850円)、清酒・新泉(330円)、川亀・純米吟醸生酒(300ml・950円)、澤乃井・純米大辛口(380円)。普通酒が多いのは致し方ないところ。川亀は純米吟醸生だが、ちょっとすっきりしすぎていて、自分には澤乃井の方が性に合う。
ビールは、生中(560円)、キリンラガークラシック大瓶(630円)ほか、各種サイズがある。

接客担当は、かつてのご主人の奥さんと娘さん2人。この娘さんを、これまた「居酒屋3大美女」に挙げる人も多い。
常に大忙しにも関わらず、こちらが恐縮するほど気を配ってくれる、素晴らしい接客ぶり。
この店の最大の価値は、渋い古さでも、旨いもつ煮でも、キレイな娘さんでもなく(いや、それらもあるが、)この気配りにこそあると思っている。

「居酒屋に並ぶなんてアホか!」と思っている自分だが、この店だけはアホになる。

→食べログ/岸田屋
http://r.tabelog.com/tokyo/rstdtl/13002239/