店主の個性がそのまま発揮されている店は、客を選ぶかもしれないが、自分はけっこう好きだ。
そんな個性派の1つが、渋谷の日本酒BAR「公界(くかい)」。日本酒BARと言っても、なんせ宮城の日本酒しか置いていない。お酒だけでなく、ビール、焼酎、ウィスキー、お米、豚肉、魚介類、麺類にいたるまで宮城産にこだわりぬいたBARなのだ。

場所は、渋谷西武のA館とB館にはさまれた井の頭通りを直進し、宇田川交番のY字路の左側を選んで更に奥に進むと、店もまばらになってきたころ右側に現れる。駅から歩くと10分程、中華料理「清香園」のほぼ向かいにあるマンションの1階で、通り側がガラス貼りになっている。

店の内装も独特。カウンター11席のみの小さい店ながら、ヨーロッパの貴族の部屋をモチーフにしている。球形の装飾が目を引く照明がシンボル的だ。
店内のディスプレイは、新鮮さを失わないよう定期的にテーマを設けて飾りつけているらしい。
窓際のカウンターの端だけテーブル大の広さになっていて、4~5人のグループはここを使う。

店を切り盛りするのは30代のご夫婦、木村光さんと容子さん。
容子さんは5年ほど前、飲食店の開業を目指してフードコーディネーターの学校に入学するまで、ずっと故郷の宮城で過ごしていた。卒業後、中国料理店「麻布長江」を経て、FMSプロジェクト(宮城県の食産業振興事業)の仕事に携わる。そこで、宮城の飲食業界に幅広い人脈を育んだようだ。
不思議なもので、そんな頃同じく飲食店を開きたいと思っていた光さんと偶然出会い、2005年9月に結婚、同年12月1日に「公界」をオープンした。

「公界」というのは、政治権力を拒否する人々が集まった、中世時代の自給自足エリアのこと。光さんが愛読する時代小説家・隆慶一郎氏の作品に由来し、「自らの力で生き抜く人たちが集まるような飲み屋」という思いを込めて名付けたそうだ。

売り物は、宮城の日本酒とくじら料理
日本酒は純米や純米吟醸が中心で、阿部勘、乾坤一、宮寒梅、浦霞、一ノ蔵、萩の鶴、日高見、綿屋、於茂多加といった銘柄が1杯700~1,000円。ここでしか飲めない宮寒梅の純米大吟醸生酒「ひより」は1,300円だが、これは非常に旨い酒のため「最後に飲んでほしい」と光さんは言う。

日本酒はいずれもワイングラスで提供され、量は120ml弱だろうか。
お酒に弱い人や女性向けに、発泡清酒「すず音」(300ml・2,000円)、低アルコール酒「ひめぜん sweet」(300ml・800円)、同じく「花撫子」(300ml・1,800円)といったお酒や、宮城の梅酒もある。
焼酎は少ないが、石巻の純米粕取り焼酎「日高見」や沖永良部島の黒糖焼酎「天下一」などがあった。
ウィスキーはニッカの「宮城峡」。ご飯はもちろん宮城産ササニシキだ。

くじらは、定番料理としてユッケ(900円)、カルパッチョ(900円)、開化丼(1,000円)、ステーキ(1,300円)、ラグーシルク麺(1,300円)があり、これに新作メニューや珍味などが時期によって加わる。

シルク麺というのは、身体にいいと言われる絹を粉状にして麺に練りこんだ、仙台の「泉月」考案のパスタ。これも東京ではなかなか食べられないが、ぺペロンチーノ風シルク麺(800円)、きのこシルク麺(900円)、仙台味噌シルク麺(1,000円)、かにのトマトソースシルク麺(1,300円)…など、ここには何種類ものメニューがある。

その他にも、白石市の養豚場白石スワインで竹炭ミネラル水によって独自の飼育をされた有難豚(ありがとん)や、三陸の魚介類(例えば今なら牡蠣のオイルサーディン)など、宮城の素材を使ったオリジナル料理がいろいろ。
BARなので1皿のボリュームは少なめだが、どれも美味しくて独創的。随時新しいメニューが登場するのも嬉しい。

郷土料理の店は多いが、ここまで一地域にこだわっているBARは珍しい。光さんいわく、「宮城のものだけで充分美味しいので、それ以外の物を置く意味がない」。
この店で過ごしていると、その言葉にも思わず納得させられてしまう。

→公界
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