神田界隈の蕎麦好きが、「やぶそば」「まつや」を素通りして通う店がある。普通の蕎麦屋ではない。路地裏で隠れるように営業している、酒・蕎麦・豆腐の店「眠庵」だ。

場所は、神田駅と秋葉原駅の中間にある、神田須田町交差点の裏手。詳しくはホームページに案内があるが、看板らしきものが見当たらないため、最初は通り過ぎてしまう人が多い。ビルの隙間に掛かる、写真の暖簾をくぐって入った正面の建物がそれだ。

大正時代に建てられた古民家をリフォームした店舗は、一見すると古いアパート風。玄関口で靴を脱ぎ、下駄箱に入れて店に上がる。
狭い室内には、4人用のテーブルが2卓と、2人用が1卓のみ。右手の厨房前に4席のカウンターもあるものの、全14席たらずだ。真空管アンプと手作りのスピーカーからは、小さくJAZZが流されている。

店主の柳澤宙(やなぎさわ・ひろし)さんは、元々は微生物学が専門という化粧品会社の研究員だった。偶然出会ったそば職人に刺激を受け、5年かけて蕎麦を研究し、この店を2004年12月24日に開業した。

店の日本酒全て静岡のお酒で、1合が入るグラスで提供される。(お燗も可)価格は420円~840円とかなり良心的なので、純米吟醸などの上質なお酒をぜひ楽しんでほしい。
メニューには振り仮名がつけられていないので、振り仮名つきで銘柄を紹介しよう。なお、お酒は時期によって一部入れ替わるが、酒蔵は静岡を代表する下記14銘柄で変わらない。

磯自慢(いそじまん)・しぼりたて本醸造(480円)、喜久酔(きくよい)・特別本醸造(530円)、國香(こっこう)・特別純米(580円)、萩錦・駿河酔 誉富士(はぎにしき・するがよい ほまれふじ)純米酒(630円)、初亀(はつがめ)・生酒吟醸 亀印(680円)、志太泉(しだいずみ)純米山田錦(680円)、臥龍梅・鳳雛(がりゅうばい・ほうすう)純米吟醸山田錦生原酒(680円)、杉錦(すぎにしき)生もと純米中取り原酒(680円)、高砂(たかさご)山廃純米 無濾過生原酒あらばしり(740円)、白隠正宗(はくいんまさむね)特別純米酒にごり(740円)、小夜衣(さよごろも)地酒工房 誉富士 特別純米酒(680円)、君盃(くんぱい)冷撰夏酒 純米生原酒(740円)、開運(かいうん)あさば一万石・純米吟醸(790円)、正雪・山影純悦(しょうせつ・やまかげじゅんえつ)純米吟醸(790円)…など、20種類ある。

ビールは、サッポロの赤星とキリンのハートランド(各中瓶・530円)、岩手の地ビールメーカー・ベアレンビールの小瓶が3種(740円~840円)ある。
焼酎は、芋が「紫尾の露(しびのつゆ)」、麦が「つくし全麹(ぜんこうじ)」、蕎麦が「十割(とわり))」(各630円)と、種類は少ないものの、こちらもかなりのこだわりようだ。

酒肴も約20種類。210円でわさび漬け、岩のり、味噌ピーが、320円で豆腐、おから煮、大根煮、さより干、うるか…がいただける。ほかに、煮豆腐(420円)や、自家製鴨くんせい(530円)等があり、一番高い「牛肉と大根のバーボン煮」で630円。
豆腐は長野の大豆・ナカセンナリを使った自家製で、塩が添えられるが、そのままでも大豆の濃厚な風味が美味しい。(お通しはおから)「牛肉と大根のバーボン煮」は、牛肉を水とバーボンで4時間煮て、2日寝かせたもの。味がしみ込んだ大根は真っ黒! なるべく日本酒に合うよう、ワインではなく麦が原料のバーボンで煮るところがユニークだ。

蕎麦は、「もり(840円)」と「二種もり(1,160円)」の2種類のみ。毎日異なる2箇所の産地から、蕎麦の実を丸抜き(外皮・そば殻を剥いた状態)で仕入れ、石臼で自家製粉している。年間では、全国数十種類のそば粉を仕入れるという。もちろん、それに合わせて挽き方や打ち方も毎回変える。元が研究職なので、時には電子顕微鏡で蕎麦粉を調べることまであるらしい。

蕎麦つゆはかなり濃く、好き嫌いが分かれそうだが、そば自体は香りが豊かですばらしい。蕎麦好きだと、この香りを楽しむため、つゆをつけずに食べる者もいるそうだ。
「そばがき」と「そば湯」も特筆モノ。絶妙な固さのそばがき(840円)は、蕎麦の香りと旨みに溢れ、ボリュームもたっぷり。そば湯は、白濁していて、かなりトロみがあり、どちらも美味しい

火、木、土のみ、ランチも営業している。
多くのグルメ雑誌などで紹介されたこともあって、昼も夜も満席のことが多い。休業予定や、夜の予約が満席の日はホームページに載るので、確認してから出かけた方がいい。

→眠庵
http://www.nemurian.net/