蕎麦屋で日本酒というのは、よくあるパターンだが、銘酒を揃えた鰻屋というのは、ちょっと珍しい。西日暮里と千駄木の間にある「稲毛屋」は、老舗の鰻屋にもかかわらず、銘酒が格安で飲める居酒屋として人気になっている。

場所は、西日暮里駅の改札を出て、道灌山通りを左(千駄木方面)へ350mほど直進し、「道灌山下」交差点に突き当ったら、不忍通りを右に進んで30mほどの右手にある。
千駄木駅からだと、2番出口を出て不忍通りを駒込方面へ450mほど直進した右側だ。どちらの駅からも、徒歩7分程度の距離にある。

創業は昭和2年。無類の酒好きとして知られた落語の名人、古今亭志ん生がご贔屓の店だったことでも知られている。今の店主で三代目だそうだ。
店の1階は、カウンター4席にテーブルが6卓くらい、2階はフローリングの座敷になっている。照明は明る過ぎず、居酒屋としても十分成り立つ造りだ。

日本酒は、純米と純米吟醸ばかり40種類ほどある。お燗以外は、黒塗りの升に入れられたグラスに、少し溢れさせて注がれる。量は120mlくらいだと思うが、価格ともかく安い
純米吟醸酒の黒龍、貴、萩錦、白露垂珠…、純米酒の田酒、天青、飛露喜、八海山、雨後の月、志太泉、宝剣、奈良萬、龍力、初孫、辨天娘…といった銘柄が、すべて480円なのだ。臨時入荷雪鶴、長陽福娘、あぶくま…なども、すべて純米吟醸で480円だった。

而今陸奥八仙は一押しの銘柄らしく、それぞれ数種類の中から日替わりで入り、これも480円から。

中には550円の銘柄もあるが、悦凱陣の純米と、松の寿、正雪、緑の英君の純米吟醸くらいだ。
更にすごいのは「日替わり地酒」で、なんと1杯250円(ただし、これはグラスから溢れさせない)。先週は豊香渡舟だった。

お燗用のお酒は、小650円、大1,300円になる。こちらも竹鶴、鷹勇、澤姫、きもとのどぶ…など、錚々たる面々。「お試し燗酒」なら小450円、大900円と、こちらも格安品が用意されている。

チェイサーは「やわらぎ水」として250円かかるが、酒蔵(先週は「貴」)の仕込み水を500mlは入りそうなピッチャーにたっぷり注いでくれるので文句はない。確認したわけではないが、お通しは無料らしい。

おまけに、日本酒以外にも見逃せない酒が揃っている。焼酎は、佐藤の黒、魔王、伊佐美…などが600円、百年の孤独でも700円。(ボトルも7種類あり)
ウィスキーでは、なんとイチローズ・モルトのカードシリーズ(エイト・オブ・ハーツと、テン・オブ・クラブス)が置いてあった。こんな鰻屋は、おそらく全国でもここだけだろう。しかもグラス千円という安さだが、さすがにこれは常連限定という話だ。

肝心の鰻はと言うと、鰻の大きさこそ少々物足りないが、ノーマル、和風、関西風と3種類の鰻丼(1,500円)がある。ノーマルは蒸して焼いたもの、和風は蒸した鰻にアサツキと海苔を載せたもの、関西風は蒸さずに焼いたものだ。人気のメニューは、ひつまぶし(2,500円)。酒の肴としては、にこごり(500円)やミニ白焼き(850円)が手頃だ。

鰻の産地は日によって変わるため、壁に貼り出されている。鰻は20時頃になると品切れになってくるので、食べたければ早めに注文するか、予約しておいた方がいい。種類は限られるが焼鳥など軽い酒の肴もあり、ホームページでも参照できる。

店では定期的に日本酒の会を開催しているが、これも相当な人気。ホームページに掲載されている分はすべて満員御礼になっている。(個人的には、これから募集が始まる6月7日の「而今の会」に目をつけている。)

もはや鰻と酒のどちらが主役か分からないほどの店だが、惜しむらくは閉店が21時頃と早いことだ。
いや、呑み始めると止まらない飲兵衛にとっては、むしろこれくらいで締めてもらった方が有り難いか?

→稲毛屋
http://www006.upp.so-net.ne.jp/inageya/