生まれたのは皇居のお堀端だったが、生後10ヶ月からずっと現在のさいたま市内に住んでいる
埼玉の県南部は、東京のベッドタウンとして定着していることもあり、昔から「埼玉都民」などと呼ばれていた。埼玉県の昼間人口は、夜間人口の87.8%と、全国最低だそうだ。100万人もの県民が都内に通勤・通学している状況では、地元・埼玉への愛着が薄くなっても仕方がない。自分自身、これだけ住んでいながら、正直あまり愛着を持っているとは言えないだろう。

それでも、埼玉の地酒の知名度の低さは、やはり残念に思う。
埼玉県の清酒生産量は、灘で有名な兵庫、伏見をかかえる京都、全国一の蔵数を誇る新潟、米どころ秋田…といった銘醸地を向こうにまわして、全国7位なのだ。消費量でも、東京、大阪、神奈川、愛知、新潟に次ぐ全国6位と、堂々たる地酒大国と言える。(順にはいずれも08年度)
昨年度1~9月のデータでは、全国の清酒出荷量が-4.4%と減少を続ける中、埼玉は+2.2%と、全国トップの伸び率を記録している。

江戸後期から明治にかけては「東灘(あずまなだ)」と呼ばれるほど酒造りが盛んで、明治30年代には350も酒蔵があったという埼玉。現在は県内に35蔵なので、100年余りで9割が消えたことになる。
それでも、全国的に見れば中程度の蔵数だ。いずれの酒蔵も自前の井戸を持ち、荒川や利根川の豊かな伏流水を仕込み水に使っている。

環境省が2008年に選定した「平成の名水百選」では、埼玉県から4箇所が選ばれた。これは、新潟や長野などと並ぶ最多認定数になる。昔から、寄居や秩父あたりは水が美味しいことで知られていた。
「全国新酒鑑評会」でも埼玉の地酒の評価は高く、08年度は出品12点のうち8点が金賞を受賞した。受賞率66.7%は、全国平均26.6%を大きく上回っている。

それでも認知度が低いのは、強力なアピール・ポイントや、有名ブランドが不足しているためだろう。
埼玉の地酒銘柄と言えば、蓮田の「神亀」が唯一最強の存在になっている。1987年、全国に先駆けて全量純米酒造りを実現した蔵として知られ、「酒なら神亀!」と心酔する熱烈なファンが大勢いる。(神田「新八」店主の佐久間達也さん、『闘う純米酒~神亀ひこ孫物語』の著者・上野敏彦さん、フリーライターの藤田千恵子さん…等々)地方の酒蔵から神亀酒造へ修行に来る後継者も多いらしい。
個人的には、昔の飲兵衛志向というイメージで、今ひとつ好みではないのだが…。

最近注目されているのは、羽生の南陽醸造だ。約140年続く酒蔵だが、7年前に脱サラして蔵を継いだ3人が素人同然から精進を重ね、現在は新酒鑑評会でトップクラスの評価を得るまでになった。
彼らが醸す「花陽浴(はなあび)」は、手頃な価格とその美味しさとで、急速にその名を上げている。こちらは自分も好きな銘柄の一つだ。

埼玉の酒を一層レベルアップするため、埼玉県酒造組合は「彩の国酒造り学校」を2005年5月に開校した。県内の若手酒造技術者を集めて、醸造技術に関する講義や実技指導などを2年間かけて行い、技術向上を図ろうという研修会だ。第1期生は2級酒造技能士試験に全員合格するという見事な成果を出し、現在は第2期生が研修中だそうだ。

地酒に関するイベントも定期的に開催されている。
来週4月8日(木)には、さいたまスーパーアリーナで「関東信越きき酒会」が開催。今年で6回目を迎える春恒例の大イベントで、昨年は茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、長野の6県から219蔵が1,051銘柄の酒を出品した。
入場無料ということもあって、県内の飲兵衛も多数集結するはず。自分も、仕事さえなければ馳せ参じるところなんだが…。

一方、県内の若手蔵元や醸造技術者など25名で構成する埼玉県吟友会は、「埼玉の地酒を楽しむ会」を主催する。浦和パルコの和創だいにんぐ「やおまん」で4月24日(土)に開かれるが、こちらは残念ながら既に満席だそうだ。
「やおまん」はスタッフにきき酒師もいて、埼玉県35蔵の地酒をほぼ全て常備しているという、地元志向の居酒屋だ。

こうした活動が徐々に実を結べば、埼玉の地酒が見直される日も近いに違いない。
考えてみれば、ウィスキー界の新星「イチローズ・モルト」も、醸造所は秩父だ。やっぱり埼玉には、意外に美味い酒がある。
あとは、この「意外に」という言葉が、いつか消えてくれることを期待したい!

→埼玉県酒造組合
http://www1.ocn.ne.jp/~saisake/