おいしい地酒を揃えた蕎麦屋は多い。たいていは店の雰囲気で何となくそれと察せられるものだが、中には意外な店もある。
新橋のはずれにある「そば処 美良(みよし)」は、全16席たらずの小さな蕎麦屋で、メニューも少ない。知らなければ通り過ぎてしまうような店だが、初夏が近付くとここでちょっと一杯やりたくなる、独特のキャラクターの店だ。

場所は、JR新橋駅烏森口を出て、新橋西口通りのアーケードを入る。そのまま真っすぐ400mほど歩いて、「スーパーホテル新橋」を過ぎると左側にある。駅からは徒歩5分くらいだ。

入口を入ると、すぐ左側に階段があり、その裏に4人用テーブルが1卓、右側に2卓と、2人用テーブルが2卓だけ。トイレは2階にある。
2001年の夏まで蒲田にあったが、そのあと新橋に移転。年配のご夫婦お2人で営んでいて、ご主人が調理、女将さんが接客を担当している。

出身が山形とのことで、山形蕎麦を掲げている。山形の蕎麦と言えば、杉板の箱に盛られた「板そば」が有名だ。ざるではなく、長方形の浅い木箱に多めの蕎麦を薄く広げたもので、水分をよく吸収する点が蕎麦に適しているらしい。
ここの蕎麦は、「山形蕎麦」とは言っても板そばではなく、ざるに乗った更科系の真っ白なもの。甘皮やそば殻を含まない上品な味で、腰があってなめらかだ。

蕎麦粉は、山形の西蔵王、尾花沢、白鷹、福島の会津磐梯山南西斜面、岩手の雫石、北海道の十勝幌加内産の一番粉を使用している。蕎麦つゆはけっこう濃い。
ざる、なめこおろしそば、天ざる、ざる中華…など、冷たい蕎麦と温かい蕎麦がそれぞれ4~5種類ずつあるが、客のほとんどは冷たい蕎麦を注文する。価格は850円~1,400円ほどで、大盛り(1.5倍)は300円増し。

は酒と肴が楽しめるが、メニューには蕎麦以外書かれていない。壁の貼り紙を見るか、女将さんに聞いて注文する。
日本酒は山形の地酒ばかり約10種類、ほとんどが純米酒か純米吟醸酒だ。銘柄は、さらり・純米(500円)、山法師・純米(700円)、寒河江の荘・純米(700円)、蔵の隠し酒・あらばしり生酒(800円)、雪道遥・純米吟醸(800円)、杜氏の蔵隠・純米吟醸(800円)、六歌仙・純米吟醸(850円)、山法師・純米吟醸(950円)、手間暇・大吟醸(1,000円)、虎の子・純米吟醸(1,200円)。
芋焼酎(600円)も置いてあるが、これはさすがに山形産ではない

日本酒は、お椀サイズの蕎麦猪口で豪快に出される。分量は正一合。お酒は全部飲まずに少し残しておき、これに軽く蕎麦をつけて食べるのが美良流だ。初めての客に女将さんが必ず勧める方法だが、これは素直に従ってみると、新しい発見になるに違いない。

肴は山形の山菜ばかり。種類は季節によって変わるが、東京では聞き慣れない名前のものも多い。紅葉傘(しどけ)、草蘇鉄(こごみ)、山浅葱(やまあさつき)、愛子(あいこ)、甘野老(あまどころ)、山独活(山うど)、葉山葵(はわさび)、行者大蒜(ぎょうじゃにんにく)…等々。

先週あったのは、ふきのとう酢みそ和え(400円)、食用菊「もってのほか」の三杯酢(500円)、アケビのみそ炒め(500円)、うるいの味噌マヨネーズ和え(500円)、あさつきの酢みそ和え(600円)…など8種類くらい。山菜以外では、板わさや自家製チャーシューの細切りがある。
化学調味料や添加物は使わないようにしているそうで、どれもみんな想像以上に美味しかった。

狭い店ということもあって、女将さんはもちろん、隣席の客と仲良くなってしまうことも珍しくない。(写真のお客たちも、みんな初対面。)一人で静かに飲みたい人には向かないかもしれないが、好みにハマれば通いたくなろうというものだ。
つまみが山の幸ばかりというところがユニークだが、これからの季節、山形の地酒と旬の山菜を堪能するにはもってこいだろう。

→ぐるなび:そば処 美良
http://rp.gnavi.co.jp/ns/5282818/