銀座はBARの聖地だが、そこで筆頭に挙げられるBARと言えば、「テンダー」だろう。
オーナー・バーテンダーの上田和男さんは、日本を代表するバーテンダー。ハード・シェイクと呼ばれる独特のシェイキングを編みだしたことから、「ミスター・ハードシェイク」の異名を持つ。

1966年、東京會舘に入社して技術を磨き、1974年に日本最高峰のフレンチ「ロオジエ」に移って店長兼チーフバーテンダーに就任。数々のカクテルコンクールで目覚ましい成績を残し、世界大会にも2度出場。1997年に「TENDER」をオープンした。カクテルのレシピやテクニックを解説した著書も多い。

店は、銀座のソニープラザから外堀通りを新橋方面に150mほど歩いた左側、能楽堂ビルの7階にある。エレベーターを上がると、左手にシンプルな木の扉と「TENDER」の表示が見える。初めて扉を開ける時には、誰もが緊張するに違いない。

扉を開くと、すぐ内側に控えたスタッフに出迎えられ、席に誘導される。右側が奥行きのあるカウンターで、11席。カウンター内には上田さんを含め3人のバーテンが立つ。左側は、4~6人用のソファ席が3卓ほどある。
バーとしては明るめの照明で、内装も高級感はあるが「重厚」というより「上質」といったイメージだ。ホテルのバーのように、シンプルで清潔感にあふれている。

メニューも、ベースのお酒ごとにカクテルが3~4種類ずつ並べられているシンプルなもの。これは、お客が選びやすいように作られたもので、もちろん実際には数百種類のカクテルに対応する。価格は、大体1杯1,600円前後が中心。チャージも1人1,600円と強気の設定だ。

「ハードシェイク」とは、手首のスナップを大きく利かせ、派手な音を立ててシェイクする方法。普通はカクテルが水っぽくなるのを嫌い、なるべく氷にダメージを与えないようにシェイクするのがバーテンの腕になる。ところが、それとはまったく逆の発想で、わざと細かい氷の粒を作り、それをカクテルの表面に浮かべることでマイルドな味に仕上げるのだ。その味わいの柔らかさ、美味しさには驚かされる。まさに、TENDER(優しい)。

この店で最も多く注文されるのは、おそらくギムレットだろう。ゴードンのジンをベースに、カクテルグラスの中央にアイスキューブを1個浮かべる東京會舘スタイルで仕上げられる。優しい口当たりに、ちょうど良い冷え具合、甘すぎず辛すぎない絶妙のバランス。少なくとも作りたての味は非の打ち所がない。

マティーニは、ビフィータのジンに、ノイリーのベルモット。グラスには小さめのピメント入りオリーブが入れられるが、別に大きめのオリーブも1個小皿に添えられる。
この店ではメジャーカップを使わないが、ジンとベルモットの割合は48ml対12mlと決められている。ドライ志向の昨今では珍しいほどベルモットが多いが、これが美味しいマティーニの比率だという主張と自信が伺える。

スタンダードはもちろんだが、数々のカクテル・コンペティションで賞に輝いたオリジナル・カクテルもメニューに並んでいる。キングスバレイ(1,700円)、シティコーラル(1,600円)、春暁(1,600円)、花椿(1,900円)…等々、こちらも人気が高い。

おつまみは、サラミ ペッパー風味(1,200円)、野菜スティック(1,200円)、チョコレート&レーズン(1,000円)、チーズ各種(1,400円)、ポテトフライ(1,200円)、牛タンの塩漬け(1,600円)、ピッツァ(1,600円)、エスカルゴ ブルゴーニュ風(2,200円)、サンドイッチ(1,600円)、サラダ(1,200円)…等、軽いものが10品強ある。

非常に上質なバーであることは疑う余地がないが、カウンターには緊張感が漂っていて、最初はあまりくつろげないかもしれない。客層も、功成り名を遂げた風の紳士や、銀座のお姉さんがちらほら。若いバーテンが話しかけてくれたりするので、お酒が進むにつれて次第に馴染んでくるはずだ。
酒場は道場、という言葉を思い出させてくれるような、大人のための本格BARだ。