たまには普通の居酒屋と少々毛色の変わった店で飲んでみたい時がある。そんな夜は、大宮の裏路地にある民家居酒屋「多雲坊(たんぼ)」に行ってみるのも面白い。

場所は、大宮駅東口の駅前通りをタカシマヤの交差点で右折し、三菱東京UFJ銀行の南側(セブン・イレブンの手前)の細い路地を区役所方面に入っていくと左側にある。駅からは300mくらい。
店があるとは思えないような狭い路地にある上、年季の入った昭和初期の民家をそのまま店舗にしていることもあって、独特の雰囲気がある。入口には時代劇に出て来そうな灯籠に枝垂れた庭木。北斎なら迷わず幽霊を描き足しそうな風情だ。

開店からは、もう30年経つそうだ。入口で靴を脱ぎ、下駄箱に入れて上がる。手前は厨房への通路や会計のスペースになっていて、奥の和室が客間になっている。
店内はそれほど広くなく、田舎の家におじゃましているような感じだ。窓際に4人用の座卓が2卓、中ほどに10人用の座卓が1卓、壁側に6人用の掘り炬燵席が1卓と8人用の座卓がある。座卓は自然木の表面を磨いた民芸調。

客間では、年配ながら和服の生地をあしらったジーンズを履きこなす店主と、細身の落ち着いた女性が接客に当たっている。厨房は奥なので調理スタッフの姿は見えない。
壁際のふすまは、店主が毎年描き替えているという襖絵(地方の風景)で鮮やかに彩られている。天井には、なぜか大きな番傘が広げられ、柱時計は1時間置きに刻を告げている。壁に貼られた「心太」(ところてん=525円)の和紙も、季節の味わいだ。
「厠」の横には、古びた骨董品が山になっている。行灯風の照明や陶器、古い置時計に交じって、「一番搾り」のマグナムボトルや「千代の亀」の麹蓋なども見えた。

料理もお酒も、その日の仕入れによって変動する。メニューは丸めた書き初め用和紙に墨で書かれており、料理・日本酒・焼酎の3巻に分かれている。巻物は1セットしかないので、注文する都度、持ってきてもらうことになる。

日本酒は約50種近くあって、銘柄はぐるなびのページでも紹介されている。一部の高級品(巻物メニューの最後部)を除き、価格はすべて1合840円。今はガラス製の徳利と切子グラスで供されているが、これは季節によって変わるはずだ。

銘柄の一例を挙げると、駒泉「作田」、田酒、豊盃「」、一ノ蔵「ひめぜん」、出羽桜「桜花吟醸」、くどき上手「ばくれん」、雪鶴・袋しぼり純吟、お福正宗・生しぼり、北雪・純米辛口、琵琶のさゝ浪・無濾過純米、蓬莱「優等賞受賞酒」「非売品の酒」「渡辺」、常きげん・山廃、本州一・生、嘉美心「冬の月」限定酒、獺祭・しぼりたて生、カネナカ花垣、呉春、千代の亀秘蔵しずく酒」「銀河鉄道」…など。
かなり希少なお酒もあって、酒好きの心をくすぐるには充分だ
焼酎は約20種ほどあり、桜井、黒瀬、海、助太刀、たかむら、魔王、酔十年、おこげ…など、こちらも面白いラインナップ。

料理もぐるなびに載っているが、名物は出汁で黒くなった「大根煮」(735円)と、タコの玉子(1,050円)。後者は品切れの場合もある。お通しは525円で、訪ねた日は「卯の花」だった。コースや飲み放題といった設定はないが、頼めば一定額で何品か見つくろってくれる。

この店の最大の特徴が「珍味」だ。なにしろタコの玉子をはじめ、氷頭(840円 )、このわた(840円 )、へしこ(840円)…あたりでは、この店の珍味に入らない。馬刺(840円)や鯨刺(1,575円)はいいとして、鹿刺(1,575円)、ダチョウ刺(1,575円)、カンガルー刺(1,575円)、イナゴ(525円)、カエル唐揚げ(1,575円) 、ワニ唐揚げ(1,575円)…といったツワモノが揃っているのだ。話のネタに食べてみる客はけっこう多いらしい

古い店ということもあって、欠点もある。煙草を喫うオジサンがけっこういるし、店仕舞いは早いし(10時)、トイレは男女兼用。それでいて、遠慮なしに食べていれば2人で1万を超えることも
ただ、料理もお酒も基本的に美味しいし、大抵のカードが使えるのは嬉しい。平日でも予約をしないと入れない日が多いのは、やはり物珍しさだけではないだろう。
特に珍味に興味がある人なら、1度訪ねてみる価値はあるはずだ。

→ぐるなび:多雲坊(たんぼ)
http://r.gnavi.co.jp/b690600/