千の酒と、千の店

利き酒師、ワインエキスパート、フードアナリスト等、様々な資格を持つ酒好き会社員が、全て自腹で訪れた東京~埼玉の
数千軒の中から、美味しいお酒の店を選んでご紹介。約380店を最寄駅で検索できる「記事の索引」や、お酒コラムもあり!

2010年04月

地酒の品揃えは御茶ノ水トップ!「地酒や 鷹ばん」 (2010/4/26)

御茶ノ水界隈に地酒居酒屋はあまり目立たないが、小川町方面へ下るといくつか面白い店がある。その中でも品揃えの豊富さで一頭地を抜くのが「地酒や 鷹ばん」だ。

場所は、JR御茶ノ水駅の聖橋口から本郷通りを小川町方面へ下り、「駿河台」の信号を右折、「小諸そば」を左に曲がって最初の右角にある。地下鉄なら、千代田線・新御茶ノ水駅や都営新宿線の小川町駅のB3出口から上がると、すぐ近くだ。

店に入ると、右側のカウンターに12席、左側から奥にかけて、4人用テーブルが3卓、6人用が2卓ある。黒と白を基調にした、ちょっと上質な居酒屋といった雰囲気。接客も、丁寧すぎず、くだけすぎずで、感じがいい。

この店には、「新酒天国」という独特の設定価格がある。これは「今月のお薦め酒」約20種類を、利き酒グラス(60ml)1杯320円均一で提供するものだ。1合に換算すれば960円なので、割安とは言えないが、通も納得の銘酒ばかりが揃えられている。

銘柄は、店のブログや店頭のメニュー・スタンドで確認することができ、今月は十四代・本丸・角新印、黒龍・垂れ口、飛露喜・かすみ酒、同特別純米・無ろ過生原酒、琵琶のささ浪・特別純米 雄町70%、御湖鶴・ひとごこち純米おりがらみ、・源之酒恵乃智・純米原酒、瀧自慢・純米しぼりたて生酒、開運 ・純米無濾過新酒、美田・山廃純米にごり、紀土・吟醸おりがらみ、醸し人九平次・吟醸うすにごり、仙禽・吟醸しぼりたてにごり酒、花陽浴・純米吟醸無濾過生原酒おりがらみ、くどき上手・しぼりたて純米吟醸、和和和・純米吟醸生原酒、福袋・純米吟醸しぼりたて生原酒、三千盛・純米大吟醸搾りたて活性にごり、獺祭・純米大吟醸48、英君・純米吟醸生原酒、豊賀・特別純米無濾過生原酒、福祝・特別純米無濾過生原酒など。
320円以外の月替わり銘柄もあって、そちらは利き酒グラスで大体450~500円くらい。

月替わりではない定番銘柄は更に幅広い。250円で十四代・本丸、田酒・特別純米、大七・純米辛口、久保田・千寿、飛露喜・特別純米。350円が男山・特別純米、船中八策・純米、黒ゆり・純米吟醸、富久長・純米吟醸、・純米吟醸。400円が益荒男・純米吟醸山廃、立山・上善如水久保田・紅寿、・純米大吟醸、繁桝・純米吟醸。450円が神亀・純米生酒 、五凛・純米大吟醸。
ほかに、山桜桃・純米大吟醸生酒(500円)、皆伝・純米吟醸生もと(600円)、久保田・萬寿(900円)、花薫光・純米大吟醸生酒(2,800円)といった高級酒も備えている。(いずれも利き酒グラス)

全部で約50種類、年間では約300種類もの銘柄が入荷するらしい。
量は、利き酒グラス(60ml)のほか、 グラス(120ml)、タンポ(240ml)の3通りから選べて、価格も倍・倍になっている。7銘柄に限られるが、500mlのデキャンタ(2,400~4,000円)を選べるものも。
十四代、黒龍、飛露喜…といった人気銘柄は、常時何種類かずつ揃えてあって、例えば十四代だと龍の落とし子(500円)や出羽燦々(500円)なども入荷する。
利き酒セットも、月替わり、週替わり、日替わりで用意されていて、「飛露喜3種類」「酒米飲み比べセット」「能登杜氏セット」「生原酒セット」など、こちらもユニークな切り口で提供してくれる。

ビールならヱビス(700円)、白穂乃香(700円)…、焼酎ならあくがれ(500円 )、杜氏潤平(650円)、武士者(700円)、梟 (850円)…、ほかにも8銘柄のハイボール(各680円)など、日本酒以外もこだわりが見える。
料理も幅広くカバーされていて、特に刺身を始めとした魚料理には自信があるようだ。

安くはないが、これだけの品揃えは、このエリアでトップクラス。滅多に置いていない高級酒や希少酒が入っていることも多いので、ちょっとずつ飲んでみたい人には、試してみる価値がある。店もそこそこの広さがあるので、宴会にも使える。
なお姉妹店として、神田やぶそばのすぐ近くに、完全個室の酒料亭「吟ばん」があり、こちらは特にランチの人気が高い。

→十八番は和食と和の酒(ブログ)
http://nihonsake.exblog.jp/12413296/

山形の地酒と山菜の店、新橋「そば処 美良」 (10/4/21)

おいしい地酒を揃えた蕎麦屋は多い。たいていは店の雰囲気で何となくそれと察せられるものだが、中には意外な店もある。
新橋のはずれにある「そば処 美良(みよし)」は、全16席たらずの小さな蕎麦屋で、メニューも少ない。知らなければ通り過ぎてしまうような店だが、初夏が近付くとここでちょっと一杯やりたくなる、独特のキャラクターの店だ。

場所は、JR新橋駅烏森口を出て、新橋西口通りのアーケードを入る。そのまま真っすぐ400mほど歩いて、「スーパーホテル新橋」を過ぎると左側にある。駅からは徒歩5分くらいだ。

入口を入ると、すぐ左側に階段があり、その裏に4人用テーブルが1卓、右側に2卓と、2人用テーブルが2卓だけ。トイレは2階にある。
2001年の夏まで蒲田にあったが、そのあと新橋に移転。年配のご夫婦お2人で営んでいて、ご主人が調理、女将さんが接客を担当している。

出身が山形とのことで、山形蕎麦を掲げている。山形の蕎麦と言えば、杉板の箱に盛られた「板そば」が有名だ。ざるではなく、長方形の浅い木箱に多めの蕎麦を薄く広げたもので、水分をよく吸収する点が蕎麦に適しているらしい。
ここの蕎麦は、「山形蕎麦」とは言っても板そばではなく、ざるに乗った更科系の真っ白なもの。甘皮やそば殻を含まない上品な味で、腰があってなめらかだ。

蕎麦粉は、山形の西蔵王、尾花沢、白鷹、福島の会津磐梯山南西斜面、岩手の雫石、北海道の十勝幌加内産の一番粉を使用している。蕎麦つゆはけっこう濃い。
ざる、なめこおろしそば、天ざる、ざる中華…など、冷たい蕎麦と温かい蕎麦がそれぞれ4~5種類ずつあるが、客のほとんどは冷たい蕎麦を注文する。価格は850円~1,400円ほどで、大盛り(1.5倍)は300円増し。

は酒と肴が楽しめるが、メニューには蕎麦以外書かれていない。壁の貼り紙を見るか、女将さんに聞いて注文する。
日本酒は山形の地酒ばかり約10種類、ほとんどが純米酒か純米吟醸酒だ。銘柄は、さらり・純米(500円)、山法師・純米(700円)、寒河江の荘・純米(700円)、蔵の隠し酒・あらばしり生酒(800円)、雪道遥・純米吟醸(800円)、杜氏の蔵隠・純米吟醸(800円)、六歌仙・純米吟醸(850円)、山法師・純米吟醸(950円)、手間暇・大吟醸(1,000円)、虎の子・純米吟醸(1,200円)。
芋焼酎(600円)も置いてあるが、これはさすがに山形産ではない

日本酒は、お椀サイズの蕎麦猪口で豪快に出される。分量は正一合。お酒は全部飲まずに少し残しておき、これに軽く蕎麦をつけて食べるのが美良流だ。初めての客に女将さんが必ず勧める方法だが、これは素直に従ってみると、新しい発見になるに違いない。

肴は山形の山菜ばかり。種類は季節によって変わるが、東京では聞き慣れない名前のものも多い。紅葉傘(しどけ)、草蘇鉄(こごみ)、山浅葱(やまあさつき)、愛子(あいこ)、甘野老(あまどころ)、山独活(山うど)、葉山葵(はわさび)、行者大蒜(ぎょうじゃにんにく)…等々。

先週あったのは、ふきのとう酢みそ和え(400円)、食用菊「もってのほか」の三杯酢(500円)、アケビのみそ炒め(500円)、うるいの味噌マヨネーズ和え(500円)、あさつきの酢みそ和え(600円)…など8種類くらい。山菜以外では、板わさや自家製チャーシューの細切りがある。
化学調味料や添加物は使わないようにしているそうで、どれもみんな想像以上に美味しかった。

狭い店ということもあって、女将さんはもちろん、隣席の客と仲良くなってしまうことも珍しくない。(写真のお客たちも、みんな初対面。)一人で静かに飲みたい人には向かないかもしれないが、好みにハマれば通いたくなろうというものだ。
つまみが山の幸ばかりというところがユニークだが、これからの季節、山形の地酒と旬の山菜を堪能するにはもってこいだろう。

→ぐるなび:そば処 美良
http://rp.gnavi.co.jp/ns/5282818/

究極の銘酒居酒屋、神楽坂「酒 たまねぎや」 (10/4/13)

居酒屋にも、ごく稀に“伝説の店”がある。たとえば池袋の「味里」(1998秋閉店)などだ。
神楽坂の「酒 たまねぎや」も、将来“伝説の店”となるかもしれない。かなりディープな店なので、万人に奨めることはできないが、日本酒マニアの間では究極の店として名を馳せている。

店は地下鉄東西線の神楽坂駅から170m程だが、路地裏のため最初は誰もが迷う。
矢来町方面改札を出て早稲田通りを右に進み、セブン・イレブンの手前を右折。道なりに左へ曲がって、洋食「イコブ」前の路地を右に入ったら、突き当たりをまた右折する。約80m歩くと、「あかぎ児童遊園」という標識の付いた電柱があるので、それと「コインランドリーLADY」の間の路地を左に曲がると、右側2軒目だ。

一見普通の住宅のような店に入ると、右側に2人用テーブルと4人用テーブルが1卓ずつあり、あとは奥まで9席のカウンターが伸びている。店内は雑然としていて、まるで倉庫か場末のスナックのよう。壁には酒蔵の前掛けや、漫画『味いちもんめ』の色紙などが貼られている。(伊橋が昔、仕事帰りに通っていた店のモデルがここ。)カウンターは禁煙だが、テーブル席は喫煙可能らしい。

店主の木下隆義さんは淡路島の出身で、地元を代表する特産物が「たまねぎ」なのだ。(北海道に次ぐ出荷量。)元は「いわしや」の名で10年ほど早稲田にいたが、1996年に移転してこの店名になった。
店主がコワモテの上、「鬱陶しい方お断り」という営業方針のため、食通雑誌もたいてい取材を断念。おまけに店のホームページは政治色が強くて、最初はビビる人も多いが、接客は丁重なので1度訪れてみれば安心するはずだ。(たぶん…

日本酒は、壁際に並んだストック用冷蔵庫の中に、1本ずつ箱入り、またはアルミホイルに包まれて数百本が積まれている。ラベルも全く見えないが、これは保存管理を徹底しているため。日本酒の最高峰と言えそうな逸品ばかりで、しかも数年~数十年寝かせているものが多いためだろう。(「昭和45年」の但し書きも目撃!)

この宝の山から30本前後が、その日の酒として提供される。メニューの料金は、脚付きグラス1杯(80~85ml)の価格だ。半合弱としてはすこぶる高価だが、最高クラスの酒ばかりなので、むしろ良心的な値付けのものが多い。なんせ一番安い酒が十四代の本丸(280円)なのだ。

最新の銘柄はホームページで確認できるが、一例を挙げると、高砂・純米吟醸無濾過(520円)、醸し人九平次「別誂」純米大吟醸(800円)、醴泉「蘭奢待(らんじゃたい)」大吟醸(900円)、十四代「龍の落とし子」純米吟醸(1,080円)、義侠・純米大吟醸30%・18BY(1,180円)、東一・純米大吟斗瓶選抜酒(1.380円)、初亀「亀」純米大吟三年古酒(1.380円)、美丈夫「夢許(ゆめばかり)」斗瓶取り(1,380円)、磯自慢・純米大吟醸40%・17BY(1,380円)、松の司・純米大吟斗瓶取り(1,380円)…と、目もくらむような美酒揃い。

特に高いのは、何年も寝かせた吟醸酒や、限定30~50本しか造られなかったような超希少酒だ。義侠の「妙(たえ)」純米大吟醸古酒や、磯自慢・純米大吟醸中取り35%、十四代の最高峰「龍泉」、醸し人九平次の「別誂」を5年寝かせた「彼の岸」あたりがこのクラス。これらは1杯3,380円という価格で、稀に5千円を超える場合もある。

メニューには日本酒しかないが、ハートランドビール(小瓶400円)やワインもある。ワインも、DRCを中心にした超弩級ばかり(1923年~のメドック1級、ロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、リシェブール、モンラッシェ…)。価格は当然6桁だが、マニアが狂喜するほどの掘り出し物もある。泡盛やテキーラ等の蒸留酒も少量置かれているが、これらは店主のコレクションなので非売品。

料理のメニューはない。常に魚介類が10種類ほどあり、「生(刺身)」と「焼き」の2通りを選べる。ここの刺身は有名で、客のほとんどが刺身の盛り合わせか、刺身+カマ焼きのセットを注文する。値段はいずれも1人前5千円くらい。鮪だけでも、赤身・中トロ・脳天・カマ・頬・上アゴ…など、多彩な部位が揃っている。〆鯖も人気だ。
刺身の下に敷いてあるケンは、大根ではなくタマネギ。山葵も大ぶりのものを粗くおろしてあって、まろやかな味だ。

軽いつまみは「わさびの茎のしょうゆ漬け」といった珍味が少しある程度。訪ねた日のお通しには「鯛の白子のお吸い物」が出された。最後の締めに、なぜかプチトマトが出されるのだが、これがまた甘くて絶品!

なお、店の時計は20分くらい進んでいる。これは、お客が電車に乗り遅れないよう配慮してとのことだが…どうやら、22時から木下さんの晩酌タイムが始まることと関係があるようだ。

→酒たまねぎや
http://www.tamanegiya.com/

600種類の地酒が格安で楽しめる、四谷「酒徒庵」 (10/4/6)

頑固親父」が閉店した今、都心で最も多くの種類を備えた地酒居酒屋というと、四谷「酒徒庵」ではないだろうか。

場所は、四谷三丁目交差点から新宿通りを新宿方面へ向かって、最初の右角の地下。地下鉄・四谷三丁目駅からだと、2番出口から出ると50mほどで到着する。(写真は、移転前の店舗)
入ると、左側に4人テーブルが2卓、右側に個室風スペースが2つある。その奥に、6席のカウンター。更に右奥へ曲がると、大きな日本酒専用冷蔵庫の並ぶフロアに、4人テーブルが8卓ある。全部で、41坪の店舗に55席だ。

フロア全体がL字型をしているため、客席が2つに分かているイメージだ。こうした造りは、神田「むら治屋」や、虎ノ門「花たろう」と似ている。
壁には全国の蔵元の前掛けがあちこちにディスプレーされていて、いかにも日本酒専門店らしい内装になっている。お酒の香りを楽しめるよう、店内は基本的に禁煙だ。

店長の竹口敏樹さんは、もともと蕨で30年続いた居酒屋「チョウゲン坊」で2005年から店長を務めていた。昨年の7月一杯で店が閉店したのを機に、東京へ進出。2009年9月1日にこの店をオープンした。
すると、たちまち数百種類の地酒を安く飲める店として、予約で連日満席という人気店になってしまった。

お酒は、地酒とビールのみ。自分は飲んでいないが、生ビール(ヱビス)の注ぎ方も絶妙という噂だ。
地酒は、店のホームページに200銘柄が掲載されている。開店当初250種類程度だった日本酒は、現在600種類まで増殖した。
お酒は半合(90ml)のグラスにすりきり一杯注がれる。メニューの値段もすべて半合の価格だが、200円~400円と、非常にリーズナブルだ。
200円の普通酒でも、黒龍、天狗舞、満寿泉…といった銘柄が並び、手抜きがない。限定品の「十四代」ですら220円(半合)という破格値だ。

竹口さんのおすすめは、あづまみね、たてのい、阿部勘、白露垂珠、飛露喜(ひろき)、花陽浴(はなあび)、屋守(おくのもり)、相模灘、青煌(せいこう)、村祐、風の森、美和桜、宮乃舞、会津中将、龍勢…あたりだとか。
ここでしか飲めないないものや、レアな銘柄も数多くある。ちなみに自分が飲んだのは、「1787(稲花)~息吹」(300円)、「色好い返事」(350円)、「東洋美人・611」(400円)、「越前岬」(300円)の4つ。

日本酒と一緒に、和らぎ水としてミネラル・ウォーターのペットボトルが置かれる。セルフサービスとはいえ、1人客でも2リットル入り1本というのは気前がいい。

料理の売りは、干物と牡蠣だ。牡蠣(1個450円)は北海道の厚岸、岩手の赤崎、宮城の石巻、三重の的矢、兵庫の赤穂、広島の宮島、アメリカ、カナダ…と、産地の異なる15種類ほどを常時揃えていて、食べ方も、生/焼き/蒸しの三通りから選べる。灰干しの干物(630円~)は、北海道や銚子からの直送
ほかにも、愛媛から毎日届く鮮魚(種類や価格は日によって変動あり)や、鯖のへしこ(630円)などの珍味、〆のおむすび(210円)まで、一通りの料理が揃う。
内臓に優しいヘルシー・メニューが多いのは、飲兵衛への心遣いということか…? お通し(420円)にも、温かい煮物が出された。

予約なしでの入店は難しい店だが、強いて挙げると、月曜か火曜ならフリーで入れることもあるらしい。満席情報や休日(不定)はホームページに掲載されているので、必ず確認してから出掛けた方がいい。自分が行った日も「満席」札が出ていたが、午後5時半から「1時間だけ」と約束して入れてもらった。(もちろん、きっちり1時間で店を出た。)
営業時間は午後5時~11時までだが、土・日・祝日は2時間ずつ早くなるのでご注意

→酒徒庵

銀座の異空間、古民家風の居酒屋「弓町銀座 溜まりや 八」 (10/4/2)

銀座のファッションビルの中に、そこだけタイムスリップしたかのような、昔の田舎家風の居酒屋がある。味噌と「味噌たまり」を売りにした居酒屋、「弓町銀座 溜まりや 八」だ。

場所は、三井不動産が2007年4月19日にオープンした大型ライフスタイルショップ、「銀座Velvia(ベルビア)館」の7階。
「プランタン」裏の並木通りに面した銀座2丁目だが、ここは昭和24年~44年まで富士フイルムの本社があったところ。「Velvia」というのは、同社のリバーサルフィルムのブランド名であり、「Velvet(ベルベット)」と「Media(媒体)」を合成した造語ということだ。
30歳~40歳代の男女を対象に、ベルベットのように上質なショップを揃えた大人の隠れ家をイメージして名付けられたらしい。

店名にある「弓町」というのも耳慣れないが、この界隈の昔の町名だ。銀座という呼び名は1869年(明治2年)に正式な町名になったのだが、当時は1丁目~4丁目の中央通り沿いだけが「銀座」だった。それ以外の場所は別の様々な町名に分かれていて、2丁目の西側が「弓町」だったのだ。ちなみに東側は「木挽町」で、こちらは現在も歌舞伎座周辺を示す言葉としてけっこう使われている。店が昔風の内装なので、それに合わせて昔の地名が付けられたのだろう。

同ビルは地下1階と7~9階に飲食店が入っており、7階には8つの店がある。エレベーターを降りて右側の通路を進むと、右手2軒目が「八」だ。格子戸の上に下がった杉玉が目印になる。

入ると右側に6席のカウンター、左側に3卓の4人用テーブルがある。メインは、突き当たりの小上がりにあるコの字型の掘りごたつ式カウンター。調理スペースを囲むように10人ほどが座れ、大変風情のある席だ。
テーブルも椅子も全て木製で、古びた味を出している。床は玉砂利洗い出しのたたきで、壁は土壁、あちこちに設えられたパーテーションは小間返し格子の引戸。古民具の茶箪笥や、特注の大釜(3升炊き)など、すべてが古民家のイメージで統一されている。

この店では、国産大豆のみを使用した味噌を数種類、蔵から直接仕入れている。
「味噌たまり」とは、味噌を熟成する段階でわずかだけ取れる、旨味成分の凝縮された汁のことだ。醤油の起源ともいわれ、醤油より塩分が低くて甘味がある。これを煮物の味付けなどに使っているのだ。特に、魚の煮付けはこれのみで味付けされているそうだが、出汁も味醂も使っていないとは思えないほど、きちんとした味になっている。

食材は冷凍食材を一切使わず、こちらも多くが生産者との直接取引。お米、有機野菜、卵、地鶏、いも豚(芋類中心の配合飼料で育てた豚)…のいずれも、生産者の名前が明示してある。料理は定番メニューのほか、日替わりが黒板に書かれている。
魚は築地から仕入れていて、お造りは単品(850円~)と盛合せ(1,500円~)がある。1人用に少なめの盛合せにしてもらうことも可能だ。(千円くらい。)

ほかにも様々な和の家庭料理があるが、特筆すべきはやはり味噌汁だろう。北海道、岩手、山形、加賀、会津、越後、信州、江戸、越中、飛騨、知多、京都、徳島、九州…と、全国各地の多彩な味噌汁が楽しめる。
お通しは400円で、一昨日は和え物が添えられたカンパチの握り。食事の〆には、急須ごとお茶を出してくれる。

日本酒は18銘柄ある。緑川・純米(800円)、伯楽星・特別純米(800円)、長珍・特別純米(800円)、王祿・辛口純米生(850円)、岩木正宗「七郎兵衛」特別純米(850円)、秋鹿・山廃純米(850円)、昇龍蓬莱・特別純米玉栄(850円)、喜久醉・特別純米(850円)、黒龍・純米吟醸(850円)、而今・純米吟醸(850円)、菊姫・山廃純米(900円)、諏訪泉・特別純米(900円)、石鎚・純米吟醸(900円)、山形正宗・雄町純米吟醸(950円)、神亀・辛口純米(950円)、綿屋「幸之助院殿」純米吟醸(950円)、醸し人九平次・純吟山田錦(950円)、土佐しらぎく・純吟山田錦(1,000円)。

冷やはないため、常温かお燗かを選ぶ。いずれも徳利&ぐい飲みで、きっちり1合提供される。いい銘柄ばかりだし、すべて純米か純米吟醸なのだが、残念だったのはその保管方法。カウンター内の棚に並べられていて、ご丁寧にもダウンライトで照らされているのだ。これではお酒の劣化をあおっているようなもの。ディスプレイにするなら空瓶を並べて、商品は冷蔵庫に保管してほしい。(正直、冷やも欲しいし…。)

ただ、店長以下スタッフ全員が真摯にサービスに努めていて、付かず離れずの接客は好感が持てる。
訪れたのは水曜だったが、奥の掘りごたつ式カウンターの小上がりには貸し切りで宴会が入っており、7時頃で満席になった。
昔懐かしい風情にあふれながらも、どこか凛とした空気を感じさせるこの店なら、銀座にいることを忘れさせてくれること請け合いだ。

→弓町銀座 溜まりや 八
http://mi-mo.jp/pc/store.php?iid=0005&tid=00000229

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